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名古屋家庭裁判所豊橋支部 昭和40年(少ハ)2号 決定 1965年4月13日

少年 K・N(昭二四・六・四生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

本件戻収容申請はこれを却下する。

理由

(非行事実)

少年は、Aと共謀のうえ昭和四〇年三月○○日午後二時ごろ豊橋市○○○町○○番地先路上にあつた同市○○通り×××番地の○店員○木○夫所有の中古第二種原動機付自転車一台時価二〇、〇〇〇円相当を窃取したものである。

(要保護性)

一、少年は本籍地において農業兼木材業の家庭に長男(姉一人、弟一人)として酒好きで稍気荒な父親と、病弱で理知的でない母親(後に創価学会に入会、狂信的な信者となり離婚の直接原因をつくつた)との間に生れ七歳時、母が病弱のため農業にたえぬとして田畑、家屋敷を売払つた父母と共に宇部市に転住しさらに一〇歳時名古屋市に移り住んだが、人夫、沖仲仕をする父の下で貧困、放任裡に成育するうち、昭和三五年ごろ(一〇歳時小学校五年)から、休怠学、家出、不良交友、窃盗等の非行をなし、ために同年七月養護施設横須賀郊外学園に収容せられた。

しかし同学園の生活に馴染めず生活も粗暴に流れ逃走四回を反覆するうち昭和三七年三月父の強硬意見に基き収容途中において措置解除により帰宅させられ、同年○○中学校に入学しその後夜間部に編入したが同年一〇月から同三八年四月にかけて、窃盗事件を頻発したため同年五月教護院玉野学園収容となつた。

しかし行状は収まらず逃走を反覆のうえ窃盗等の非行を重ね昭和三八年一〇月一八日名古屋家庭裁判所において初等少年院送致の決定をうけ、同決定に基き同年同月豊ケ丘農工学院に収容されたが同三九年一一月一九日仮退院を許され、その帰住地を管轄する名古屋保護観察所の保護観察に付されるに至つたものである。

そしてその際遵守すべき事項として

1  一定の住居に居住し正業に従事すること

2  善行を保持すること

3  犯罪性のある者や素行不良な者と交際しないこと

4  家出など身勝手な行いはしないこと

5  家庭に落着いて勉学に励むこと

6  保護司には進んで何んでも相談しその指示を守ること

などが定められ、少年はそれに従うべきことを誓約した。

二、ところが前記仮退院後一たん父方に帰任し○○中学校夜間部に復学し同市内の○○製薬にアルバイト工員として勤務するかたわら職場から通学するという生活をしばらく続け一時良好な経過を示したが

1  同年一二月初旬○○製薬を明白な理由もなく退職し同じアパート向側の年長の女性(水商売あがり)の下に入り浸り

2  同年一二月○○日にはBと共謀して名古屋市熱田区○○町の工場の寮内でカメラ、背広上下を窃取し

3  同四〇年二月○日上記Bと共に家出して原動機付自転車一台ほか二台を順次窃取して乗廻し

4  同年二月○○日再び家出し、単独で自転車、原動機付自転車各一台を、Cと共謀のうえ自動車一台部品等を、

CおよびDと共謀して自転車一台をそれぞれ窃取し

強い犯罪的傾向を示すようになつた。

三、更に同年三月××日名古屋保護観察所から、東三更生保護会智光寮に送致され同日入寮したが翌○○日に前記非行事実欄掲記の非行を犯したのである。以上の事実は中部地方更生保護委員会の戻収容申請書および附属書類、少年の窃盗保護事件記録、少年調査記録、審判廷における少年および保護者らの陳述を総合すると認められる。

四、上記のとおり少年の初発非行は既に小学校五年頃に発現しており、以後さしたる抵抗もなく同種非行を反覆類行している点、少年の性格の偏りがかなり根深いものであることが窺われる。

初発非行当時は父が酒に溺れ、母はその男関係を家庭に持ちこむ等家庭生活にかなりの乱れがあり、それが抵抗力の弱い少年の性格形成に悪影響をおよぼしたであろうことは推察するに難くない。従つて少年の上記性格的変調も、生得の素質的負因に基くものというよりもむしろ劣悪な成育環境によるものであることが窺われるが一方少年の非行歴、生活歴等を総合的に考察すると上記性格的変調は漸次固定化して来ていることが知られるのである。

少年は知能は普通で(IQ=94)努力次第でかなりの向上を期待できる能力をもつているが、一方両親および社会全体に対する強い不信感が少年の心のしこりとなつており、少年の向上心を阻みこれが意思情緒不安定で飽き易く気分にむらのある性格を醸成しているものと思われる。従つて一時的には向上への決意を示しても、やがて正常な社会からの脱落感からこれに対しては拒否的となり、陰の生活に逃避を企て非行に走るものと考えられる。

また家庭は上記あつれきがこうじて父母の間に昭和四〇年二月××日に調停離婚が成立しており、その保護能力は全く期待できないので、その他金井調査官の少年調査票、名古屋少年鑑別所の鑑別結果通知書等も併せ考えて、少年の心身の健全な育成を期するためには少年院における矯正教育を施すのを相当と認め、なお戻収容申請については上記のとおり遵守事項に違反し再犯のおそれもあり、これを認める充分の理由があるけれども、上記窃盗事件は遵守事項違反の埒外に脱し、刑法犯であり既にこれについて窃盗保護事件として収容保護を加える以上、戻収容を認容する必要がないのでこれを却下することとし、刑法第二三五条、少年法第二四条第一項第三号、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年院法第一一条第三項、少年審判規則第五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 藤森乙彦)

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